熊式。

大熊一精(おおくま・いっせい)の日々あれこれです。
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『アリ対猪木 アメリカから見た世界格闘史の特異点』



素晴らしい。まず、この本(米国で出版された原著)が発見されたことが素晴らしいし、米国での原著の出版からわずか1年後に、日本語訳が出たことが素晴らしい。

原題は "The Forgotten Fight That Inspired Mixed Martial Arts and Launched Sports Entertainment" − 忘れられた戦い、なのですね。あとがき(謝辞)で、著者は、こう書いています。

《饒舌な私の言葉に耳を傾けてくれたすべての人に感謝したい。ほとんどの人がモハメド・アリとアントニオ猪木の忘れられた戦いに強い関心を示してくれ、みんなの好奇心をかき立てられたことで、本書を著したいという願望がいっそう強まった。》(p.334)

忘れられた戦い?「猪木アリ状態」って言葉すらあるのに?そんな言葉は知らない人でも、一定年齢以上の日本人なら、アリと猪木が異種格闘技戦を行ったこと、それが(世間一般の多くの人にとっては)世紀の大凡戦であったことは、記憶の片隅に残っているはず、なのに?

この本の監訳者である柳澤健氏の解説に、その辺の事情の説明があります。

《モハメド・アリ対アントニオ猪木の異種格闘技戦が話題になるのは日本だけで、世界各国では、アリの輝かしいキャリアに汚点をつけた奇妙で退屈な試合、というのが共通認識だ》(p.343)

へ〜、そうなのか。

そういう中で、出版のタイミングがアリの逝去の直前になったのはたまたまなんでしょうけど、アメリカ人ジャーナリストが、長期にわたる綿密な取材を元に、こういう本を書いた。結論を先に言ってしまえば、巷間言われているように、あの試合は両者の技術が未熟だった、40年後の現在ではあたりまえになっている総合格闘技の技術体系が当時はまだまったくわかっていなかった、ということではあるのですが、そこへ至る検証の過程は、スリリングです。

アリ猪木の異種格闘技戦の話になると、新間寿氏が監禁されたとかルール問題とか、そうしたことばかりに焦点が当たる中で、この本では、たとえばジーン・ラベールに丁寧に話を聞いていたりするから、新事実がわかったとかの下世話な関心以上に、あの試合が何だったかが、今まで見たことのない角度から俯瞰できる。

ノンフィクションはかくあるべき、という、必読本であります。

 

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