熊式。

大熊一精(おおくま・いっせい)の日々あれこれです。
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電子じゃなくて、紙ってる

ああそうか、池井戸潤は慶應だから『陸王』なのか…という話はさておき、いまさらベストセラーについて書くのもなんだか気恥ずかしいですけど、『陸王』は、おもしろかった。

 

池井戸潤『陸王』、パイロットの万年筆インク「紺碧」

 

「足袋作り百年の老舗が、ランニングシューズに挑む」(帯の紹介文)というストーリーゆえ、ランニングシューズの愛用者として興味深く読めた、という面もあるけれど、それ以上に、中小企業経営の、とりわけ金融面が、じつによく書けている。登場人物の台詞も、いちいち身に沁みるものが多くて、たとえば《「ノーリスクの事業なんてありませんよ」ビジネスの原則だ。「進むべき道を決めたら、あとは最大限の努力をして可能性を信じるしかない。でもね、実はそれが一番苦しいんですよ。保証のないものを信じるってことが」》(p.296)とか、《「どんな仕事してたって、中小企業の経営だろうと、大企業のサラリーマンだろうと、何かに賭けなきゃならないときってのは必ずあるもんさ。そうじゃなきゃ、仕事なんかつまらない。そうじゃなきゃ、人生なんておもしろくない。オレはそう思うね」「だけど、賭けに負けるかもしれないじゃん」「そうだよ」宮沢はあらためて大地を見た。「だから人生の賭けには、それなりの覚悟が必要なんだよ。そして、勝つために全力を尽くす。愚痴をいわず人のせいにせず、できることはすべてやる。そして、結果は真摯に受け止める」(中略)「だけどな、全力でがんばってる奴が、すべての賭けに負けることはない。いつかは必ず勝つ。お前もいまは苦しいかもしれないが、諦めないことだな」》(p.358〜359)なんて場面は、何度、読み返していることか。

 

だから、やっぱり、紙の本、なんだよね。

 

『陸王』は、単行本の発売早々に電子版もあったから、電子版という選択肢もあったんだけど、こういうことになるんだろうな、何度も読むなら単行本なんだろうなと、あえて、かさばる紙の本を買ったのだ。

 

一方で、グリコ・森永事件をヒントに書かれた(こっちもあえて紹介するのもどうかと思うような売れ筋ですけど)『罪の声』(塩田武士)は、つい、本屋さんに行くのが面倒で、Kindle版で買っちゃったんだけど、この小説には主人公が二人いて、一人が「かい人21面相」ならぬ「くら魔天狗」が現金受け渡し場所の指示に使ったテープに吹き込まれた子供の声が幼少時代の自分の声であることに気づいた人物、もう一人が30年以上前の事件を追うことになった新聞記者なんだが、彼らの動きが交互に登場するから、ちまちま読んでると、あれ?彼はどうしてこの事実に辿り着いたんだっけ?と、わからなくなってくる。それで前に戻りたいんだけど、そういうとき、電子版というのは、実に不便なのだなあ。ぼく、Kindleの日本語版が出たときから使ってますから、これはもはや慣れの問題ではなくて、やっぱり、そういうものなのだ。

 

『罪の声』を最後まで読み終えたとき、ああ、これ、紙の本で買えばよかったなあ、と思った(けど、今のところ、実際に買ってはいませんけど)。

 

やっぱり、本は、紙に印刷したものを読むべきで、そうじゃない、電子書籍というのは、ぼくが知っている本ではないんだよなあ、というのが、Kindleとそれなりに付き合ってきて、いま、感じていること。ただ、現在の我が家は、ちょっとした古本屋でもやれるんじゃないかと思うような状態になってて(それでも相当数の本を少し前に処分したばかりなんだが)、これ以上、本が増えるのは、本当は、困る。

 

そんなときにふと思い出すのは、宮脇俊三さんの『途中下車の味』に収められた「冬の旅なら北海道」の中で、宮脇さんが幌加内の読者から手紙をもらって、その読者を訪ねていく場面=《安保さんの自宅は旭川にあり、幌加内へは単身赴任。部屋のなかは本で埋まっていた。「本を買うのが趣味でしてな」だから私の本なども買ってくれたのかと納得する》=だったりする(やっぱり宮脇さんはうまいねえ)。で、この文章をすぐに見つけられるのは、Kindleの中に「宮脇俊三 電子全集」があって、「幌加内」と入れてやると、すぐに該当箇所が見つかるから、だったりするわけで、そういう意味では、Kindleを全否定するつもりもないんだけど(でも、それだって、ぼくの脳内メモリーになんとなくその場面が記録されているから、検索できるわけで…なんて話は、また、別のテーマだ)。

 

池井戸 潤
集英社
¥ 1,836
(2016-07-08)

塩田 武士
講談社
¥ 1,782
(2016-08-03)

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