熊式。

大熊一精(おおくま・いっせい)の日々あれこれです。
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『南後志に生きる 五十三人が語る個人史と町 北海道・日本の歴史』

南後志に生きる 本の表紙、背表紙 かなりの厚さ

分厚くて重い本です。本文は2段組で、600ページ以上。ただ、長編小説でもなければ、長編ノンフィクションでもなく、それぞれが独立した全50章から成る本だから、気になるところだけ読んでもいいし、少しずつ、たとえば1日に1章ずつ読み進めていく方法もある。

「はじめに」から:
《北海道の渡島半島の付け根に寿都町・島牧村・黒松内町という3町村が位置している。全人口あわせても1万人にも満たず、道内でもさほどの存在感はない。しかし、そんな地方にも、人々の生活があり、歴史がある。(中略)2014年(平成26)5月から2015年(平成27)5月までの約1年間にわたって、この3町村に縁をもつ60歳から98歳の人たちに会い、それぞれの歴史を訊いた。(中略)取材を繰りかえしながら、すべての人が歴史をもち、その歴史にはひとつとしておなじものはないと、私は実感した。また、人の一生は、生まれた地や時代に左右され、個人では抗いがたい大きな流れに乗せられることも多いと知った。》

読みながら、もっとも強く感じたのが、上の引用部分の最後の箇所でした。いろんな人生があって、でも、みなさん、こうしたインタビューに答えているぐらいだから、辛い思い出も、昔はよかったという回顧も、いまとなっては、すべてを飲み込んでいる。ああ、こういうことなんだ、学校を卒業して大きな会社に入って定年まで勤めて退職金と年金もらって、みたいな人生のほうがよかったんじゃないか、なんて、考えることないんだ…と、いまさらながらに、思いました(まったくもって個人的な話ですけど、ぼくは35歳までそういう路線に乗っかってたはずなのにそこから降りちゃったわけで、やっぱり、たまには、そういうことを考えたりするわけですよ)。

著者が1976年生まれと(ぼくからみれば)若いからなのか、高齢になるとどうしても出てしまう(それは仕方のないことだと思う)「昔はよかった、それに引き替え現在は…」的な視点がなくて、何のフィルターもなく、とても素直に取材対象に接していて、過剰な描写で盛り上げる(いまふうの表現を使うと「話を盛る」)ようなこともなく、それでいて、しっかりと取材対象に向き合っているから(ときにご苦労された部分もうかがえるのですが)、読みやすいけれど、ツルンとしてない。ちゃんと、引っかかるところは引っかかってきて、平易な文章なんだけど、読み流すのでなく、頭の中できちんと消化しながら読みたくなる。

本文の前に「寿都町・島牧村・黒松内町の人口変遷」という図があって(こういうデータものがしっかりしているのもこの本のとてもよいところです)、これによると、3町村合計の人口は、現在と比較可能な時点でもっとも古い1920(大正9)年が25,657人だったのに対し、直近の国勢調査結果(2010=平成22=年)では8,474人と、90年間で3分の1に減少しています。これだけの人口減があったのだから、現在のイメージからは想像できないような過去があったのは当然なのですが、でも、数字だけでは、なかなか、どんな姿だったのかを描くのは難しい。この本に収められているインタビューに連続性はないのですが、でも、読んでいけば、データや、あるいはいわゆる歴史の本からでは想像できない部分が、くっきりと浮かび上がってきます(それがフィールドワークのおもしろいところなんだろうな…とはいえ、そこまで到達するには、ただフィールドワークをやればいいってことじゃなくて、相当なエネルギーが必要です)。

ぼくの頭の中の3町村は、寿都町は寿都鉄道(といっても名前しか知りませんが)、島牧村は島牧YH(ユースホステル)、黒松内町は北海道横断自動車道の起点(=北海道観光マスターの試験に出ました)とブナと青春18きっぷのレア販売駅、といったところでしょうか。島牧ユースは、ぼくがホステラーだった当時、「しままきはいいよ〜」と、けっこう、聞いたんですけど、結局、行かなかったんだよなあ。それと、黒松内は、生涯二度目の北海道上陸を果たしたとき、青春18きっぷで函館から121列車に乗って(当時はもう50系客車のレッドトレインでした)20分ぐらい停車した駅、という記憶が残ってます(その後も、北海道鉄道百景スタンプラリーで訪れたりしてます)。

『南後志 −寿都・島牧・黒松内− に生きる』販売箇所

 

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