『国鉄史』
国鉄史 (講談社選書メチエ) (鈴木 勇一郎 ・著、2023年12月刊)
とてもよい本です。
『国鉄史』というタイトルですが、いわゆる国鉄=公共企業体としての日本国有鉄道の歴史だけを扱っているのではなく、概ね、国鉄的なもの=全国ネットワークの鉄道網を中心に、日本の鉄道の歴史を俯瞰した本です。
「プロローグ」で、筆者は、日本の鉄道の歴史は以下の4つの時代区分で眺めると見通しがよくなると説明しています。
私鉄の時代(1872年〜1906年)
国家直営の時代(1906年〜1949年)
公社の時代(1949年〜1987年)
JRの時代(1987年〜現在)
現代の日本について考えるときには「戦前」と「戦後」を別物として扱う思考の癖がぼくにはあって(この辺は世代によって=受けてきた教育によって=異なるのではないかと思います)、ゆえに戦前の日本の鉄道と戦後の日本の鉄道を同じ土俵に上げることはこれまでしてこなかっただけに、この時代区分で日本の鉄道の鉄道を論じていることは、目から鱗でした。そして、たしかに、こうやって眺めてみると、コロナ禍で噴出してきた地域鉄道の問題も、よく見えるようになるのです。
この本と合わせて、昨年12月16日に開催された一般社団法人交通環境整備ネットワーク主催 地域鉄道の高付加価値フォーラムin五所川原「どっすー?地域鉄道」 の基調講演「地域交通法改正のポイント、地域の鉄道はどうあるべきか」(国土交通省大臣官房参事官 田口芳郎氏=前・鉄道局鉄道事業課長)を聞くと、さらによくわかるようになります(講演の内容はリンク先のページから動画で見ることができます)。
ローカル線問題や並行在来線のことなど、現在の日本の鉄道が抱える課題について論じると「そもそもこうだったはず」といった話になりがちなのですが、その「そもそも」が、かつては正しくても、今はもう違うのかもしれない。そうだとすれば、今後数十年間を見据えて(←ここは大事なところで近視眼的にならないよう注意しないといけない)制度設計をし直して、それに合わせた法整備を進めなければならないはずで、そのためにも、鉄道に関心のある者としては(こうでなければならないと決めつけることやこうあってほしいと感情的な願望を抱くことから離れて)しっかりと勉強し、自分の頭で考えることが大事です。この本=『国鉄史』は、そのための参考書として最適な一冊だと思います。