熊式。

大熊一精(おおくま・いっせい)の日々あれこれです。
<< September 2018 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>

『海馬島脱出』

稚内のクラーク書店に平積みになっていた本。



こういう本が目立つところに置かれていたりするから、稚内のクラーク書店はおもしろい。そして、応援したい本屋さんなのです。

タイトルの「海馬島」は、礼文島の北にある無人島ではなく、樺太(サハリン)のそばにある島です。「モネロン島」のほうが、わかりやすいかもしれません。



昭和20年8月15日以降も戦闘が続いていた樺太で、ソ連兵の目を盗んで海馬島から北海道へと脱出を図った人たちの手記やインタビューを集めたのが、この本です。脱出は数回にわたって、さまざまな船で、また、さまざまなルートで行われたようで(その辺は証言者や記録によってまちまちで正確なことはわかっていない由)、脱出船の中には、礼文島の船泊に立ち寄ったものもあります。

稚内のクラーク書店で買ったものの、しばらく放置(積ん読)状態だったのですが、大地震で停電した日の昼間、電気復旧を待つ以外にやることもないときに、読みました。この本に書かれていることに比べれば、停電で困っているなんてたいしたことじゃないと思いながら、読んでました。

こういう本を読むたび、ぼくは何も知らないんだなあと思わされます。北海道の人がときどき話題にする、いわゆる三船遭難事件にしても、ぼくは、恥ずかしながら、北海道に引っ越してくるまで、知りませんでした。

もはや、あれもこれもと幅広く手を出すよりも得意な分野で世の中に貢献する年齢なのだろう…と思う一方で、こういう本に接すると、やっぱりまだまだ勉強だ(そして勉強したことは次の世代に語り継いでいかねばならぬ)とも思います。

 

読書 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | - | -

「それでは国鉄はどうか」



《卒業前に父から、政治家になるつもりはあるのか、と聞かれたことがあります。絶対にやらない、と答えた私に父はこう言いました。
「そうだろうな。お前みたいに人のいい奴につとまる仕事じゃない。お前は、俺と違って、苦労していない。政治家になっても、大成しないだろうな」
その頃の私は、新聞記者に憧れていました。本を読むのも、文章を書くのも好きだったからです。しかし、「ジャーナリストは人を批判してばかりいる仕事」と考えている父に猛反発を食らいます。
 それでは国鉄はどうか。鉄道好きだったのでそう言ってみると》

そうか、石破さんの頃はまだ国鉄の採用があったのか、というのと、この頃から(本当に)鉄道好きだったんだなと(いまさらですけど)思いました。いや、べつに、大人になってから鉄道好きになってもいいんだけど。鉄道趣味がそういう位置づけになった=隠すものではなくむしろひけらかすことでプラスになるものになった=ことは、じつに喜ばしいことだと思いますから。

この本は、総裁選を前にした石破さんの政策解説本ではあるのですが、ぼくは、後半に出てくる選挙の戦い方のシステム化の話が、いちばんおもしろかったです。
 

読書 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | - | -

『真説・佐山サトル』

ぼくがこのところ寝不足になっている原因の一つが、この本です。

手間をかけて多くの人の証言を集めたノンフィクションはやっぱりおもしろい。



ちょうど去年の今ごろに出たGスピリッツのスーパー・タイガー特集の巻頭ロングインタビューの終盤で、佐山サトルが語っている《…格闘技界は自分を裏切りましたね(中略)プロレスはまた別ですよ。プロレスは裏切らなかったですから》の意味が、よくわかりました。それは具体的にはどういうことなのか?を、ひとことでまとめてしまうのは、この本に対して、失礼な気がします。そのぐらい、この本には、読み応えがあります。

こういうのを見せられちゃうと、やっぱり(電子書籍でなく)紙の本だよねと思っちゃいます。

読書 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | - | -

『80's エイティーズ ある80年代の物語』

心身ともに疲弊しきって壊れかけていたとき、ぼくが逃げ込んだ本。

本の表紙

とはいえ、

《僕はべつに、それほど熱心なプロレスファンではないし、巷にあふれる自薦他薦のプロレス評論家ほど、この”格闘技”に対して深い知識を持っているわけではない》(本書 p.73)

という、この本の中の著者の言葉を借りれば、ぼくはべつに、それほど熱心な橘玲ファンではないし、むしろ、橘玲氏の著作は、肌に合わないものが多いと感じてきたほうです。まわりにたくさんいる氏のファンに比べれば本もそんなに読んでないし、ちょっとこの人とはなかよくなれないかなと思っていたほど。

だから、その程度のヤツが言ってる戯言だと思って聞いてもらえばいいんですけど、橘玲さんが内田樹さんや平川克美さんと接点を持っている(というエピソードがこの本の中に出てくる)のは、すごく、不思議でした。違和感、というのとは、また、違うんだよな。あまりにも主張が違うような気がして(と言いきれるほど橘玲氏の本を読んでいるわけではないから「気がして」などと逃げているわけですが)、まったく結びつかない。でも、そういうものなのかなとも思ってみたり。主張が違うからお互いを排除しちゃうのがいちばん危ない。危ないだけでなく、つまらない。異質な人がいるから、世の中は成り立っていて、新たな何かが生まれてくるわけで。

この本みたいな、自分よりちょっと年上の人(そして大学卒業→就職→定年みたいな人生からは外れた人)が書いた回顧物がおもしろいのは、ぼく自身がその時代に触れていて、だけど、ぼくはまだ若かったから(若いとすら言えない幼い時代すら入っているから)、そのときは世の中で起きていたことがよくわかってなくて、自分より少し年上の人に教えてもらうと、ああそうか、あのときのあれはそういうことだったのかと、実感を持って理解できるから、なのだと思います。

それをまっとうなサラリーマン人生送ってる人に言われると、あんまり現実感がないんだけど(ということをわざわざ言ってるあたりにやっぱり自分はドロップアウトしちゃったっていうコンプレックスがあるんだよなあ)、こうやって、流されるがままに生きてきた人から教えてもらえると、ああ、それでいいんだと、コンプレックスが消えていく。そこで安心しちゃうのはまずいんだけど、揺らいでいた自信をまた固定してくれるぐらいの効果はある。

著者が大学に入学した頃、ぼくは同じような場所を毎日行き来していて、具体的にいえば、毎日、川越から池袋まで東上線の急行電車に乗って(たしか急行は川越6時25分発が最後でそれからしばらくは準急しかなかった)、池袋から高田馬場の間はラッシュアワーの山手線内回りに乗って(外回りは空いていていいなあといつも思っていた)、そこから地下鉄に一駅乗って、帰りはその逆で、たまに高田馬場の駅前の芳林堂書店で鉄道ジャーナルを買ったり、という日々を送っていて、学校の地下の食堂でうどん食べたりカレーライス食べたり、そこから時間が経過して自分が大学に入る頃になると、構造と力、朝日ジャーナル、などなどのアイテムが思い出されて…

という、もうずいぶん長い間呼び起こすことのなかった記憶の断片が、数珠つなぎに出てくる。これは、鉄道趣味とか、北海道への旅と憧れとか、そういうのとは別の場所に収納されている記憶なんだな。

ぜんぜん書評になってませんけど、これが、この本の、ぼくの感想です。

読書 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | - | -

『2011年の棚橋弘至と中邑真輔』



プロレス本が多すぎる。

というのもあるけど、なんかこれは違うんじゃないかなと思っていたのです。もちろん、この本が出ていたことはとっくに知ってたんですけど(本屋さんに行くと鉄道書コーナーとスポーツ本コーナーに行くのが常です)、いまいち関心が持てなかったというか、正直にいえば、ちょっとした拒否反応もありました。

もっと早く読めばよかった。

というのが、読み終えての感想です。一昨年の、座る場所は自由だった宴会の前に「今日は大熊さんと猪木アリ戦の話がしたくて」と入口でぼくを待っていた人が、昨年の暮れに、この本のことを「おもしろかった」と言っていて、そういうふうに(ものすごくいろんなことを語り合った仲ではないけれど)感性が同じである(というのが言葉を使わなくてもわかる)人が言っているのであればおもしろいのだろう、読まなきゃ…と思い直して、でも、それからでも、ずいぶん時間が経っちゃった(忙しい忙しいとか言ってると心が死ぬよ<反省)。

プロレスの話なんだけど、どっちかというと、人間ドキュメント、たまたまテーマがプロレスであるだけの(プロレス本として括られてしまうのはもったいない)ノンフィクションであって、すぐれたビジネス書としても読める。まあ、でも、プロレスに関する最低限の理解がないと、わかんないかな、という意味では、やっぱり、プロレス本なのかな。

だけど、こういうところは、ビジネス書だと思うのよ。

《選手たちはみんな頑張っていたけれど、結果的にビジネスは下がり続けている。これまでと同じことを続けていてはダメだ、と強く思いました。そのことに気づいているのは、僕ひとりだとも感じた。沈んでいく船に乗り続けるか、急いで逃げ出すか。故障や水漏れの箇所を修理して航海を続けるか。レスラーの考えはさまざまでしたが、僕は船を修理して、帆を立てて風をつかもうとした。》(p.153)

《企業が生き残るためには、ヒット商品を捨てないといけない。いつまでも時代遅れになった商品にしがみついていては、ビジネスは下がっていくばかりです。》(p.155)

《重要なことは、見ていたお客さんが楽しかったかどうか。レスラーや関係者の自己満足ではダメなんです。たとえばレストランで食事をする。おいしかったらまた行くけど、まずければ二度と行かない。店のポリシーなんて関係ない。》(p.158)

これを著者が言う(書く)と、押し付けがましい(ダメな)自己啓発書になりかねないのですが、上の引用箇所は、この本の主役の一人である棚橋弘至というレスラーの言葉なのです。だから、この本には、力がある。

感動、という言葉を使うのは好きじゃないんですけど、あえて使っちゃいましょう。ちょっとずつ読んで(一気に読むのがもったいなかった)、最後は、軽く、感動しちゃいました。プロレスに関心のない人には手に取りにくい本だとは思いますが、ものすごく強く、お勧めします。
 

読書 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | - | -